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9 ☆ ☆
「地元一押しのお店ってネットに書いてあったよ。何かおすすめある?」
あそこの店はリュウセイと何度か行ったことがある。リュウセイは、メロンマーブルを選んでくれたけど、シラユキはカフェモカが食べてみたかった。
「カフェモカがおいしいと思います」
「カフェモカ。オッケー」
それから二人は一緒にショーケースを見た。星空みたいに、色とりどりのフレーバーが輝いていた。
「うん。たしかにカフェモカが一番おいしそう。カフェモカのシングル、コーン二つください」
二人は横断歩道を渡って、歩道のあちこちに設置されているベンチに腰を下ろしてアイスクリームを食べた。強い日差しのせいで、アイスクリームがすぐに溶けてしまう。コーンが湿って、手がべたべたになってしまった。
「ごめん。コーンじゃなくてカップにすればよかったね」
「いえ、大丈夫です」
「いやこれは大丈夫じゃないよ」
重尾はリュックからウェットティシュを出してくれた。シラユキはそれを受け取って指を拭いた。
「貸して」
シラユキがゴミを持て余していたので、重尾が受け取って、リュックの中から取り出したビニール袋の中に入れた。
「何でも持ってるんですね」
「うん。旅行中だから」
「あの、私、コーンで良かったです。カップだと損した気がするから」
「あ、よかった。いっしょ。食べられるほうが得した気がするよね」
「うん」
初めて共通項が見つかった気がして、シラユキはうれしかった。
シラユキからこぼれ出した笑顔を重尾は見つめていたが、やがて言った。
「今度は、上手に花束作ってほしいな」
「がんばります」
「うん。楽しみにしてる。」
重尾はちょっと片手をあげて、じゃあね、と言って、海沿いの道を歩き始めた。どこへ行くんだろう。キラキラ光る海に,帰っていくんじゃないだろうか。シラユキは、太陽の光を無数に反射する海に飲み込まれていきそうな、重尾の後ろ姿をいつまでも見ていた。
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