桐島

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山田サラがキスをしていた時。あの日は現場実習でお世話になる企業にあいさつ回りをするつもりだったから、ジャケットを着ていた。 そして。 見知らぬきれいな男とキスをしていた山田に駆け寄ろうとしたとき、足元で何かを踏みそうになったんだ。それが、このふただった。 思わずポケットに入れたまま、すっかり忘れていた。 皮膚科で処方される外用薬のケースのふたみたいだ。何かの塗り薬を入れていたのだろうか。シールの日付は処方日? あそこの従業員に、あかぎれでもできていたんだろうか。 「桐島、どうした?」 ぼんやりしている桐島に、渡辺先生が声をかけた。 「あ、大丈夫です。すぐに出ます」 桐島はふたをジャケットのポケットに入れなおして、実習室を出た。
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