桐島

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「どうしました?」 驚いて中田が手を引っこめた。確認書に黒いインクの染みが広がっている。中田の書いた文字は判別ができなくなってしまった。 「す、すみません」 「書類はすぐに作り直せますが、大丈夫ですか? どうかされましたか?」 「あの、もう一度、数字を書いてもらっていいですか」 「数字・・・?」 「はい」 中田は首をかしげながら、メモ用紙に1から9の数字を書いた。桐島は、メモを受け取って見つめた。 「すみません、今日の日付を書いてもらっていいですか」 「・・・ええ。わかりました」 中田は素直にメモ用紙に『2023年6月22日』と記して桐島に渡した。桐島は食い入るように眺めた。似てる気がしたのだ。桐島はポケットからふたを出して、二つを見比べた。ふたに貼られているシールの日付の文字。似ているといえば似ている。でも、よくあるくせ字だと言われればそうとも思える。 「中田さん、このふたに見覚えはありませんか」 桐島から手渡されたふたを、中田はていねいに確認した。 「ちょっと・・・僕にはよくわからないんだけど・・筆跡、似てますか?薬のふたみたいですね。なんなんだろう」
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