桐島

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「山田サラと最後に会話をしたのは僕でした。ちょうど頭上をパラグライダーが飛んでいました。あんなのつけなくても飛べたらいいのにと、山田が言いました。そんなわけのわからないことをいう子だったんです。だから僕も 『飛んでみなよ。サラちゃんなら飛べるかもよ』 といいました。それが、引き金です」 「まさか。そんなことはありえないでしょう」 「普通はね。普通はありえない。でも、僕には実感があるんです。 僕の言葉が山田サラを殺したって。いつだって気が付いたらそのことを考えているんです。あの時、強く山田を呼び止めて引き戻していたらよかった、様子がおかしくなった時になぜ追いかければよかった。 『飛んでみなよ』なんて、言わなければよかった。 いつだって気が付いたらそのことばかり考えている。原因は僕なんです。なのに、山田の死は生徒たちの責任にされてる。 こんなのおかしい。俺はずるいでしょう?」 桐山はボロボロと泣いていた。 「死んだ人は、何が明らかになっても帰ってはきませんよ。騒ぎになれば、また傷つく人が出てくるでしょう」 「分かってる。分かってます。そう。俺が楽になりたいんです。 俺のせいじゃない部分があってほしいって思ってるんです。そこを知りたいだけなんです。そう、やっぱり俺はずるい。 でも。でも、このままじゃ、こんなぐちゃぐちゃな心じゃ、あの子に手も合わせられない。山田のことを何一つまともに思い出せないんです。思い出すたびに、自分の中の汚い心と、あのきれいな男への憎しみと、生徒を巻き込んで勝手なことを言うマスコミに、気持ちがぐちゃぐちゃになる。 それじゃダメなんです。 もう一度、静かになった心で、あの子の事を思い出したいんです。どんな子だったかとか、どんな話をしたかとか、ただ、静かに、思い出したいんです」 長い沈黙と、静かに流れる涙があった。
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