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リュウセイ
1 ☆ ☆
リュウセイは目を覚ました。枕もとでスマートフォンが揺れている。メールが着信したのだ。どんな目覚ましの爆音よりも、この音で目が覚めてしまう。仕事の依頼だ。メールには、日時のみが記されている。
「今日? マジ? 急だな」
思わず舌打ちが出る。こっちにだって都合があるんだぜ。ユキと遊んでやろうと思ってたのに。ばさりと髪をかき上げると、彫の深いきれいな横顔があらわになる。
「ユキ」
返事がない。
「ユキ」
やっぱり返事がない。
リュウセイはデニムシャツを羽織った。ドアを開けて部屋を出ると、向かいの部屋のドアが少しだけ開いている。モニターの部屋だ。
ユキは時々ここで画面を眺めているけど、面白いんだろうか。外の世界が見たいのなら、俺が連れて行ってやるのに。リュウセイはそう思いながら中をのぞく。
誰もいない。
モニターを見る。
花屋の店先には、通いの店員、濱井の姿があった。濱井はハローワークに出していた求人に応募してきた人だ。三十は過ぎているだろうか、気さくで親しみやすい男だ。端正な顔立ちで、笑顔に人の良さが前面に出ている。
犬顔だな、とリュウセイは思っている。あっという間に花屋になじんで、生れたときから働いているように生き生きとしている。シラユキもすぐになついて、店先でよくおしゃべりしている。部屋にいない時は、だいたい濱井と無駄話をしている最中だ。
でも、今はいない。
おかしいな。
リュウセイはそう思いながら階下に降りて行った
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