リュウセイ

1/9

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ

リュウセイ

           1   ☆   ☆ リュウセイは目を覚ました。枕もとでスマートフォンが揺れている。メールが着信したのだ。どんな目覚ましの爆音よりも、この音で目が覚めてしまう。仕事の依頼だ。メールには、日時のみが記されている。 「今日? マジ?  急だな」 思わず舌打ちが出る。こっちにだって都合があるんだぜ。ユキと遊んでやろうと思ってたのに。ばさりと髪をかき上げると、彫の深いきれいな横顔があらわになる。 「ユキ」 返事がない。  「ユキ」 やっぱり返事がない。   リュウセイはデニムシャツを羽織った。ドアを開けて部屋を出ると、向かいの部屋のドアが少しだけ開いている。モニターの部屋だ。 ユキは時々ここで画面を眺めているけど、面白いんだろうか。外の世界が見たいのなら、俺が連れて行ってやるのに。リュウセイはそう思いながら中をのぞく。 誰もいない。 モニターを見る。 花屋の店先には、通いの店員、濱井の姿があった。濱井はハローワークに出していた求人に応募してきた人だ。三十は過ぎているだろうか、気さくで親しみやすい男だ。端正な顔立ちで、笑顔に人の良さが前面に出ている。 犬顔だな、とリュウセイは思っている。あっという間に花屋になじんで、生れたときから働いているように生き生きとしている。シラユキもすぐになついて、店先でよくおしゃべりしている。部屋にいない時は、だいたい濱井と無駄話をしている最中だ。 でも、今はいない。 おかしいな。 リュウセイはそう思いながら階下に降りて行った
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加