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そんなわけで、濱井はビニールハウス横の実習農場管理室で会長のスピーチを聞くことになった。もう一人、年配の渡辺先生も残ってくれている。
「渡辺先生、ぜんぜん私のスピーチ練習してくれないのに、今日は残ってるんですよ。私と濱井さんのこと疑ってるんです。失礼ですよね」
会長はプリプリ怒っていたけど、そりゃ当然の心配だろうと濱井は思う。
会長はカバンからスピーチ原稿を出した。
「じゃ、聞いてくださいね。Welcome to Yuhu, Mr.García・・」
「ちょ、ちょっと待って、英語?」
「そうですよ。外国からのお客様だもん」
「会長英語しゃべれるの?」
「全然。英語の先生が原稿書いてくれて、ALTの先生が読んでくれたのを録画して、耳コピしました。何言ってるかはよくわかりません。お前は頭悪いけど耳はいいなあって先生からいわれました。」
「ひどいこと言うなあ。でもそんなんでいいの?」
「いいんじゃないですか? じゃ、聞いてくださいね」
会長は、流ちょうにしゃべり始めた。もちろん濱田には何を言っているのかはさっぱり分からないが、いい声だし、よどみなくしゃべってるからいいんじゃないだろうか。何より一生懸命さが伝わってくる。会長がしゃべり終わって、濱田は拍手した。
「いいよいいよ。きれいにしゃべってた」
「ほんとですか。よかった」
「ばっちりばっちり」
急に会長の顔が曇った。
「でも、みんな、私のスピーチなんか聞いてくれるでしょうか」
「なんで?聞くに決まってるよ」
「だって、私たち、人殺しの学校って思われてるんですよ。あんな学校の子が、なに偉そうにスピーチなんかしてるんだって、思われないかな」
会長は泣き始めた。
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