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「シゲ?」
大瀧は坂道を小走りに登っていく重尾の姿に目を疑った。桐山を監視してるんじゃなかったのか? 大瀧は駐車場で概略を高橋に説明した後、元町通りに急行した。
「確か『branch』の手前のカフェで監視してるんだよな・・・あそこかな? 」
などと思っていたところで重尾を目撃した。重尾は坂道を登っていく。
桐島に何かあったのか?
桐島はどこだ。
その時『branch』から店員が出てきた。
「お客さん、忘れものですよっ」
店員は坂道を下っていく男の背中に呼び掛けて、大きく手を振った。
あの背中は、桐島か?
桐島が、坂道を下っていく。どうなっているんだ。
店員は書類の入った封筒のようなものを掲げている。
「俺、知り合いなんで渡しときますね」
大瀧は思わず封筒を奪い取り、桐島を追う。すぐに追いつくつもりだったが、人の流れとは逆で、中途半端な人混みが行方を邪魔する。桐島先生は迷いなくすたすた歩くものだから、見失いそうになる。人にぶつかってもいいから走るか?
そう思って大瀧が小走りになったとき、桐山は歩道橋を登り始めていた。ようやく追いついた時は歩道橋の中ほどに達していた。
「すみません。忘れものですよ。」
大瀧が声をかける。反応がない。肩に手をかける。
「すみません。忘れものです」
やはり返答がない。強引にこっちを向かせようかと思った次の瞬間、桐島はものすごい勢いで大瀧の手を振り払うと、歩道橋の手すりを軽々と飛び越えていった。まるで羽でも生えているかのように。
茫然としている小瀧の耳には急ブレーキの音、重たい衝突音、金属と金属がぶつかる音と人間の喚き声が聞こえていた。歩道橋の下で起きていることは、わざわざ見なくても分かり切っていた。
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