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花屋の店先では濱井が鼻歌を歌いながら切り花の整理をしている。
「お、リュウセイ、起きたんか。遅いおはようだな」
リュウセイは特に返事をしない。返事をしなくても大丈夫な相手だと思っている。レジ前の椅子に腰を下ろして、カウンターに足を投げ出した。身長が百八十センチを超えているから、椅子では足を持て余してしまうのだろう。
「リュウセイ、それはやめろ」
注意をされると素直に足を引っ込める。二人の間の儀式みたいな流れだ。
「濱井さん、ユキは?」
「ユキちゃん? 上にいない? 俺、急に新しい花が入ったからちょっと出てたんだけど、帰ってきてからは見てないよ」
「マジ? あいつどこいったんだろ」
「ユキちゃんも、散歩くらい行くだろ。散歩くらい行ったほうがいいぜ。ずっとこもりっきりじゃ、かわいそうだ」
「時々俺が遊びに連れてってる」
「お前の遊び場は刺激が強すぎるんだよ。今度俺が釣りに連れてってやろうかな」
「余計なお世話だよ」
「お前も一緒に行こうや。いいポイント教えてやる」
「うるさいな」
そこへ、坂道をとことこと登ってシラユキが帰ってきた。シラユキは二人が店先でもめているのを見て驚いていたが、リュウセイは、外から帰ってきたシラユキを見てもっと驚いていた。
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