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「シラユキ。尾行されてる。ていうか追いつかれるぞ。前の観光客の団体に紛れ込んで右の脇道に入れ。今から指示する」
耳につけたイヤフォンから、『お兄ちゃん』の声が聞こえた。
つけられてる?
初めての事だ。シラユキは『お兄ちゃん』の指示通り前を行く観光客の群れに紛れ込み、脇道に入り込んだ。そこから元町通りの一本隣の細い坂道に入り、坂を下ってから元の道に戻った。尾行者の背後に回れたはずだ。
『お兄ちゃん』の声が聞こえる
「あいつ。グレーのTシャツにジーンズの男がお前をつけてた。知ってるか」
あの人? シラユキは確認をして愕然とした。シゲだ。どうして?あの背中を見間違うはずがない。初めて出会ったとき、海岸線を歩み去っていくシゲの背中をずっとずっと見つめていた。
なぜ? やはり、シゲは私をだましていたの?
重尾は重尾で、車酔いしたような気持ち悪さに襲われて足が止まっていた。複数の視線が頭の中をかき回してくる。吐きそうだ。なぜ防犯カメラの一つ一つから視線を感じるんだ。しかも同じ人物の視線だ。こんな感覚は初めてだ。だれが俺を見ているんだ。どうやって見てるんだ。不快だ。そっちに気持ちがいってしまって、シラユキに集中できない。人込みの中に見失いそうだ。
いや、見失った。
しまった。
どこだ。
焦って周りを見回そうとしたとき、重尾は首筋に衝撃を感じて意識を失った。
スタンガンか
倒れる重尾の体を支える手があった。
「大丈夫?ちょっと休もうか」
リュウセイだった。リュウセイは友人を装って肩に手を回し、イヤフォンの指示に従ってカメラを避けながら近くに止めてあった車に重尾を連れこんだ。
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