奪還

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高橋に連絡がつくまでが長かった。取調室でのやり取りの中、大瀧自身も話せば話すほど荒唐無稽になっていく感じがして、だんだん頭がぼんやりとしてきた。高橋さんは所轄に何も知らせていなかった。だから、感情的な不快感もあるようだった。ドラマでよく見るやつだ、と大瀧は思った。また、大瀧の身分が交通局出向というのも話をややこしくした。例の法律が施行されてから、警察と交通局の主導権争いが絶えない。交通局に出向していた大瀧が連絡もなく現場にいたのも気に入らないようだった。まるで参考人扱いの聴取が続いた。担当の刑事が言う。 「お前があの先生と何かトラブルがあったってほうがしっくりくるんだよ。先生とお前しかいなかったんだよあの歩道橋には」 「だから高橋さんを呼んでください、画像をもってすぐ来てくれますから」 不毛なやり取りが続く。それよりも、シゲだ。あいつはどうなった?重尾の所属と階級まで伝えているのに何も教えてもらえないことに、大瀧はいらだっていた。 「だいたい、女からキスされたらふらふら自殺するなんて、そんなバカな話があるわけないだろう? バカにしてるのか」 「とろけるようなキスなのかもしれませんよ。知らんけど」 「しらんのかい」 もはや口論だった。これが容疑者だったら心証最悪だよな。もしかして俺、マジでやばいのか? 大瀧は、キステロに関する一連の出来事が夢のような気すらしてきた。
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