視る男

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視る男

パソコンの画面が九つの監視カメラの画像を同時に映し出している。9分割された画面には、同じ男の顔が違う角度から映し出されていた。 『重尾大樹』 交通局の神山は、ネット上から重尾の高校時代の卒業アルバムと出身大学まで見つけ出していた。ニエベスの監視カメラから取り出した重尾の画像をネットで検索にかけたのだ。出身大学のデータベースに彼の就職先の情報はなかった。個人のSNSもなし。知り合いのSNSに映りこんだ画像もなし。あまり友達がいないタイプなんだろうか。警察官は自分の個人情報の管理を徹底するという。ダメもとで県警のネットワークに潜り込もうとしたが弾かれた。 「重尾大樹・・・何者なんだ」 画面を切り替えてシラユキとリュウセイに指示を与えた。リュウセイが重尾を確保したところを確認して、ほっと溜息をついた。シラユキの画像が拡散したときから、いつか何かが起きると思っていた。 あと一息なんだ。やっとここまで来た。マドレとボスの宿願が叶うときがきたのだ。ここで止まるわけにはいかない。   神山は交通局の仮眠室で開いていたタブレットの接続を切り、交通局の管制室に戻った。 「おお、神山、大丈夫か」 「すみません。急にえずきそうになって」 「なんか変なものでも食ったんだろう。気をつけろよ。この仕事、集中力を切らしたらエライことになるからな」 「ありがとうございます。もう大丈夫です」 しおらしく頭を下げながら、神山は思う。 この善良な上司は、ついさっきまで俺が一人の人間を死なせるためにたくさんのカメラを覗いていたなんて、思いもしないだろう。俺が、最初から自分の立場を利用するためにこの仕事に就いただなんて、知りもしないだろう。俺が、知らない誰かの戸籍を与えられ、ようやくこの世界の表側を生きている人間だなんて、考えもしないだろう。本当の名前なんて、とっくに忘れてしまった。俺は、イスラ・コン・ティキから逃げ延びて、不法に入国した名前のない人間だったから。
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