視る男

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「ニエベス」 「ニエベス。素敵な名前ね。名前の通り、色白できれいになりそうだわ。ブランカ・ニエベス。」 ブランカ・ニエベス。俺とマドレが故郷でシラユキにつけた名前だ。ブランカは白。ニエベスは雪。親たちはアルコール依存症だった。シラユキは生み捨てられたような状態で放置されていた。俺はシラユキを見捨てられなかった。 シラユキが生まれた時、めったにないことだが町に雪が降った。雪は街路をうっすらと白く染めた。薄汚いすべてのものを覆い隠してから、雪はあっという間に消えた。 神様の、見事な手際だ。 俺はこの日の事をずっとずっと覚えておきたいと思った。だから、この子にニエベスと名付けた。マドレがそれにブランカを添えた。だから、シラユキは僕とマドレの特別な子供なのだ。 シラユキがぐずり始めると、俺は家に帰らなければならない。でも不安はなかった。またあの路地で辛抱強く待っていれば彼女は必ず窓辺に現れる。たとえ待っているのが俺でない誰かだとしても。そこに彼女がいればよかった。 「またあのメス猫の顔を見に行ってたんだね。近所の笑いものだよ。」 酔ってろれつの回らない声で母親は言う。床に転がった酒瓶がまた増えている。割れた瓶を片付ける人間もいない。そんな家の中で、シラユキは奇跡のようにすくすくと育っていた。泥沼の中で、何に汚れることもなく、白い雪のように生きていた。 俺たちが最初に間違ったのは、乗る船だった。その船に乗った人間は、正しく日本に入国することができなかった。もう少し待てば正しい扱いをしてくれる船に乗れたのかもしれない。でも、待っている間に犬のように虐殺されたのかもしれない。 何もかも、どうしようもないことだった。
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