視る男

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マドレは、母国にいたころと同じような商売をしていた。日本では違法行為だから、リスクが高い。傷やあざを作って帰ってくることもあった。その傷に、俺は薬を塗ってやった。 「ありがとう」 マドレは言った。俺たちは、日ごろも日本語を使うように心がけていた。周囲に違和感を与えないためだ。マドレには日本人の客もついていたから、馴染みのある言葉ではあった。 「一度行ってみたいって思ってた。でも、まさかこんな形で来るとは思わなかったわ」 薬を塗り終わった俺の頭をマドレは抱いてくれた。 「もう、寝てていいのよ。待ってなくてもいいのよ」 「いやだ。待ってる」 「ダメよ。子供はちゃんと寝なさい。」 もう俺は子供じゃないという気持ちと、マドレの子供のままでいたいという気持ちがないまぜになり、俺はマドレの胸に顔を埋めた。マドレは俺の髪を優しくなでてくれた。 「おやすみなさい。優しい子」 俺はその声を聞きながら、やっと眠りに落ちていた。 俺は頭のいい子供だったらしい。マドレともシラユキとも別れて、ボスのもとにうつった。 拒否する選択肢はなかった。ボスのもとでたくさん勉強した俺は戸籍をもらって、小学校に転入した。 「6年2組『神山友広』」 それが俺の名前だった。 「これから7年、じっくり周りを観察しろ。そして、普通になれ」 ボスからの命令だった。 6年2組にいたころは、友達も作れず、一言もしゃべれなかった。にもかかわらずいじめられることがなかったのは、俺から異様なものを子供たちが感じていたからだろう。 ボスにそのことを報告すると、渋い顔をされた。
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