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「俺はマドレが好きなんだよ」
「ありがとう」
「本当だよ」
「分かってる。かわいい子」
「俺はもう子どもじゃないよ」
「でも『マドレ』って呼んでるじゃない?」
「なんて呼んだらいいかわからないんだよ!」
不意に暴力的な衝動がわいてくる。マドレが男たちにつけられたような傷を、つけてやりたくなる。彼女の顔に枕を押し付けて窒息させてやりたくなる。
好きなのに。
俺は先に進みたい。でも、どこに「先」があるのか分からない。俺は半端にこの世界を知ってしまったから、「今」の状態が正しいものではないことが分かる。この場所に居続けることなんてできない。でも行く場所もない。デッドエンドだ。
じゃあ、いったいどこで間違えたのか。どこからやり直せば正しい世界に行けたのか。
何度も考える。そのたびに答えは同じだ。
どうしようもなかった。
やり直せるポイントなどどこにもない。いつだって俺は、自分の最善を尽くしてきた。何も間違っていない。でも、正しい場所には行けなかった。
マドレは体を張って俺たちを守ってくれたけど、最後は俺を手放した。
「シラユキをあたしのようにしたくないの。わかって。」
そう言って手放したのだった。いまさら気づく。俺は、悲しかった。
俺はいったいどこに向かっているんだろうか。行き着く場所が決まったとき、俺のそばには誰がいるんだろうか。
「泣かないで、ぼうや」
「名前で呼んで」
「トモヒロ、泣かないで」
マドレをマドレと呼び続ける限り、俺は抜け出せない。分かってる。でも、なんて呼んだらいいのか、まるで分らない。
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