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「神山、ぼんやりすんな。モニター見ろよ」
はっと顔を上げると、元町通り交差点付近にたくさんの光が明滅している。渋滞しているのだ。赤い光は事故処理の警察車両だ。救急車はすでに現場を離れている。救急車のアイコンがオレンジ色から緑の明滅に変わったから、ターゲットは死亡している。
ミッション完了だ。
明滅したまま滞っている無数の光をスムーズに流すために、信号の時間を調整し、道路ナビも流す。AIがかなり仕事をしてくれるが、微調整は未だに必要だ。道路だけの問題ではなく、その日の気温、天候、最寄りの工場の稼働状況、行われるイベントの状況などからも判断をする。ドライバーが最適なコースに迂回し始め、明滅が均等になった頃を見計らって、俺は休暇を願い出た
。
「すみません。ちょっとまだ気持ち悪いんで、今日は失礼します」
「おい気をつけろよ」
上司はモニターに目を向けたまま、振り向きもせずに許可した。
「ありがとうございます」
車に乗り込んでタブレットを開くと、ボスからのメールがあり、事の詳細が簡潔に記されていた。
リュウセイから着信があった。
「あいつ、つかまえたから」
重尾のことだ。
「おまえが余計なことするからだぞ」
「・・・ごめん」
「起きたことは仕方ない。尋問はするのか?」
「ボスとマドレが帰ってきたらすぐだよ。俺がさっき一回ボコった」
神山は頭を抱えた。
「ちょっと落ち着け。そいつはおまえが招いた客みたいなもんだぞ。はっきり事態がわかるまで手を出すな。」
「うるさい。あいつがユキの周りをちょろちょろするから」
恋か。勘弁してくれ。
「とにかく落ち着け、マドレはどこに行ってるんだ?」
「・・・中田所長のとこじゃないか。」
「・・・そうか・・・・なるほどな。じゃあ、お前もわかってるだろ。終わりが近いんだ。落ち着いてくれ」
「わかってる。悪かったよ」
リュウセイは、尋問に立ち会うかと聞いてきた。神山は、自宅でモニター越しに参加すると伝えた。周囲の警戒もしておくべきだ。もうすぐマドレたちの大願が成就される。それは見届けたい。
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