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「まあね。あ、忘れるところだった。もう一つ頼まれてたもの。なんに使うか知らないけど」
中田はチューブに入ったクリーム、スプレー状の容器に入った液体、錠剤をマドレに渡した。
「かなり強い効き目になると思うよ。体に害がないとは保証しきれない」
「いいわ、ありがとう」
「あなたも覚悟してるんだね」
「ええ」
中田は思い出していた。授業中に一生懸命見つめていた、几帳面に編まれたおさげ髪の事。教科書を朗読するときの声がきれいだったこと。眼鏡を買ってあげたいと思ったけどうまく言い出せなかったこと。生まれて初めて前向きに努力しようと思ったこと。すべて故郷に置き去りにしてきた、幽霊のような感情だ。
「僕も覚悟はできてるけど、痛いのは嫌だな」
「一瞬よ」
マドレは中田にキスをして、彼の頭を抱きしめた。いつの間にか、背後にボスが立っていた。中田の目がマドレの胸の中でうつろにさまよい始めた。マドレはささやいた。
「この銃で、頭を撃ち抜いて」
手袋をはめたボスが、銃を中田に渡した。
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