追憶

1/2
前へ
/189ページ
次へ

追憶

神山は自宅に戻った。独身者が住むごく普通のアパート。しかし室内は異常だ。 ドラマではストーカーや異常者の部屋にたくさんのモニターがあってぞっとするというシーンがある。神山の部屋も同様だ。壁一面に複数のモニターがあり、カーテンは閉めっぱなしだ。ここから交通局のネットワークに侵入している。ターゲットのルーティンを追跡して監視カメラの死角を洗い出す。通行人の視線の傾向も分析したうえで実行するポイントを決めて、シラユキとリュウセイに指示を出す。それが神山の仕事だ。 交通局に入局したとき、 「いいかトモヒロ、必ずパスワードを手に入れるんだ。そして、自由にアクセルできるようにしろ。そうすれば、俺たちは危険を冒さずに仕事ができる」 ど、ボスから言われた。パスワードを手に入れてすべてのカメラを掌握できるようになるまで2年かかった。シラユキとリュウセイが仕事をこなせるようになるまで、ボスの仲間たちが窃盗をする協力をした。 カメラ越しにシラユキを見て、神山は不思議な気持ちになる。この子は本当に自分があの島から連れてきた赤ん坊なんだろうか。シラユキは、あの島のことを知らない。アルコール依存症だった両親に見捨てられて、割れた瓶の転がった部屋で暮らしていた日々のこと。兄弟で窃盗すれすれのことをして食べ物を手に入れていたこと。それでもごみ溜めのような路地を一歩出て、メインストリートから眺める海はとてもきれいだったこと。 シラユキは何も知らない。 きれいな女の子に育ったと、神山は思う。カメラ越しに指示を与えながら、見ず知らずの男にキスなどせず、このまま街の中に溶けていけばいいんじゃないか? そうすればシラユキは、普通の女の子になれるんじゃないか? と考えてしまう。 シラユキは、最後の作戦が終了したら、解放されるべきだ。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加