奪還 2

1/10
前へ
/189ページ
次へ

奪還 2

激しい衝撃が腹から突き上げてきて、胃袋が口から出そうになった。重尾は何が起きたのか分からず体を丸めようとして気づく。拘束されている。手足が動かない。目を開けているのに何も見えない。アイマスクをつけられている。そこまで認識したときにもう一撃が来た。体の中からグチャリと言う音が膨れ上がって口から何かがあふれる。何がどうなっているのか全く分からないけど痛みだけがそこにある。これは恐怖だ。痛みは恐怖のスパイスにすぎない。頭を抱え込んで泣き叫びたいのに、手足は石みたいに動かない。 「誰なんだよお前は」 声が聞こえる。誰?俺は誰だ。思い出せ、俺の設定は何だ。 「ええ? 何なんですか 俺観光してただけなのに」 何とか口が動いたけど、ちゃんと喋れない。グチャリとしたものと一緒に音が漏れ出した感じだ。言葉になったかは分からない。もう一撃、腹に食らう。胃が破裂したんじゃないか?俺は死ぬ。死ぬぞ。俺は椅子に固定されていて、椅子ごと蹴り上げられたんだ。今は椅子事ごと床に転がっている。でもそんなことわかっても何の意味もない。マジで死ぬ。これは死ぬ。 「はあ? 何が観光だよ、 おまえはユキの周りうろついてるだけだろ。何のためなんだよ」 体の方向が変わった。椅子が起こされたんだ。床と椅子にはさまれていた手の指が楽になったけど、そんなことでは釣り合わない恐怖が襲ってくる。 ユキ? ユキ? 誰だ? ユキ。シラユキちゃんのことか。 「花屋にかわいい子がいたからさ、話しかけたかったんだよ」 「お前、ふざけんなよ」 あごに一撃。火花が散るような衝撃が脳を直撃し、重岡は再び意識を失った。 「もう、やめようよ」 と言う声が遠いところから聞こえた気がした。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加