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リュウセイの横顔は不機嫌なままだ。時々不機嫌になるリュウセイのことを、シラユキは怖いと思ったことはない。ただ、悲しくなる。リュウセイを、手の届かないもののように感じてしまう。
私には、分からないことが、たくさんあるから。
「ユキ、それより、仕事が入った。」
リュウセイは、隣接する都市の駅名を告げた。その駅と商業施設をつなぐコンコースで仕事だ。
「急だね。」
「まあな。そのかわり、『飛んでもらう』だけだから、難しくはないよ」
「わかった。着替えてくるね」
「うん・・・ユキ、退屈してるんなら、どっか遊びに行くか?」
「え、いいの? うるさくないとこがいい」
「オッケー。準備できたらすぐ行くぞ」
リュウセイは笑った。
「うん」
シラユキはうれしくなった。よかった。リュウセイが笑ってくれると安心する。やっぱり、リュウセイは優しい。
階段を上がるとき、ふと、シラユキはマドレのことが気になった。
起きてるだろうか。仕事に行く前に会っておきたくなった。
マドレの部屋をそっと覗く。マドレは、ドレッサーの前に座って、髪をとかしていた。シラユキにはマドレのほっそりとした背中と、長く黒い髪が見えた。ドレッサーの鏡に、シラユキの顔が映った。マドレが振り向いた。
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