リュウセイ

4/9

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
          2     リュウセイの横顔は不機嫌なままだ。時々不機嫌になるリュウセイのことを、シラユキは怖いと思ったことはない。ただ、悲しくなる。リュウセイを、手の届かないもののように感じてしまう。 私には、分からないことが、たくさんあるから。 「ユキ、それより、仕事が入った。」 リュウセイは、隣接する都市の駅名を告げた。その駅と商業施設をつなぐコンコースで仕事だ。 「急だね。」 「まあな。そのかわり、『飛んでもらう』だけだから、難しくはないよ」 「わかった。着替えてくるね」 「うん・・・ユキ、退屈してるんなら、どっか遊びに行くか?」 「え、いいの? うるさくないとこがいい」 「オッケー。準備できたらすぐ行くぞ」  リュウセイは笑った。 「うん」 シラユキはうれしくなった。よかった。リュウセイが笑ってくれると安心する。やっぱり、リュウセイは優しい。 階段を上がるとき、ふと、シラユキはマドレのことが気になった。 起きてるだろうか。仕事に行く前に会っておきたくなった。 マドレの部屋をそっと覗く。マドレは、ドレッサーの前に座って、髪をとかしていた。シラユキにはマドレのほっそりとした背中と、長く黒い髪が見えた。ドレッサーの鏡に、シラユキの顔が映った。マドレが振り向いた。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加