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右のスナックが怪しい。妙な使用感がある。防音しているようだが姿勢を落として店のドアまで近づくと音が漏れている。
嫌な音だ。これ、映画で知ってるやつだ。殴られたりけられたりしてるやつ。シゲ、だいぶやられてるんかな。俺、こんな仕事してるけど、痛いの嫌なんだよな。そんなことを思いながらそっとドアを押すと、覗き込める程度の隙間ができた。
この人たちには施錠って概念がないのかな。中は、明るい。椅子の周りに人が集まっている。椅子に座っているのはシゲ。いや、座らされてるのか。手足が結束バンドで椅子に固定されている。
シゲの前に若い男が立っている。身長180センチくらいか、立ち姿がしゅっとしてるし横顔がえぐいくらいのイケメンだ。俺も負けたな。うわ、蹴られた。大瀧は首をひっこめた。無線を通して高橋に伝える
「高橋さん。重尾、だいぶヤバいです」
「相手は何人だ」
「見た限り、男4、女2、女の一人はたぶんキステロちゃんです」
大瀧は、重尾からシラユキの写真を見せられていた。ホレさんの農園に行ったときに隠し撮りしたものだったが、実にいい笑顔の女の子だと思った。合コンに居たらめちゃくちゃテンション上がるよなあ、残念だ。
たぶんシゲはこの子に惚れてるな。だから彼女のほうを追いかけちゃったんだ。刑事失格。あとでねちねち責めてやろう。
「監視カメラはあるか」
「あるけど、反応ないから誰も見てません」
「重尾に意識は?」
「あると思いますがアイマスクされてます」
「重尾を見ろ」
「え?」
「重尾を見ろ。俺だ、大瀧だと念じながら見ろ。通じるはずだ。何か合図があるかもしれん。説明は後でゆっくりしてやる」
「了解」
何がなんだかよく分からん。しかし言われたことをやるのが若手の勤めだ。まず重尾を見る。顔は割ときれいだ。
ボディから攻められてんな。昔のドラマにあったやつだ。
大瀧は言われた通り、『シゲ、俺だ、大瀧だ』と念じながら重尾を見た。重尾の頭が動いて、大瀧のほうを向いた。うわ、マジか。なんかすごいぞ。
「重尾の反応、ありました」
「よし。閃光弾の使用を許可する」
閃光弾とは、爆発すると強烈な光と轟音が発生し、相手の視力と聴力を一定時間奪う。動きを封じて制圧するためのものだ、イヤーマフをつけて閃光がさく裂している間顔を背けてしっかりと目を閉じておけば、芋虫のように体を丸めている敵の間を自由に動くことができる。連中が復旧してくるまで40秒。
「了解」
重尾がかすかにあごを動かして、何かを指し示した、なんだ。あの先に何かあるのか?大瀧が重尾に合わせてその方向を見ると、テーブルがあり、その上に白いクリームケースが置かれていた。なんだろう。そう思う間もなく、キステロちゃんがテーブルに近づいてきて、それを取り、中のクリームを口中に塗り、また、元の場所に置いた。
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