奪還 2

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突然、重尾が言葉を発した。 「君は好きじゃない男にキスするんだね」 その場の人間が、一瞬たじろいだ。投げ込むなら、今だ。 大瀧はイヤーマフを装着し、ドアを激しく蹴り上げた。驚いた視線が集中する。そこをめがけて閃光弾を投げ込み目を閉じて腕で覆う。瞼越しにも強い光を感じる。閃光弾は5秒で効力を失う。五秒数えて行動開始だ。全員ちゃんと食らってるようだ。轟音と閃光をまともに食らえば四十秒はまず動けない。イヤーマフを投げ捨てて、重岡に近づく。結束バンドはちゃちなものだったから、ナイフであっさり切断できた。 「シゲ」 返事はない。閃光弾に耳を持っていかれてるんだ。体をゆすると、声が聞こえた。 「大瀧、あれ」 大丈夫、の気持ちを伝えるために軽く頭を抱いた。ありがとう、というつぶやきが聞こえたから、多分伝わった。テーブルの上の白いケースは間違いなく回収した。 「走るぞ」 背中に腕を回して重尾を支える。あと二十秒、俺に身を任せて走ってくれたらいける。ドアを出て左、階段を降りる。興奮していた大瀧は近くにいたデカい男を思いきり蹴り上げてから走り始めた。あと五秒、いける。いける!  外階段の下には高橋さんが車をつけてくれていた。 「高橋さん!!」 「急げ」 二人は転がるように階段を降り、大瀧は重尾を座席に押し込んだ。二人乗りだから定員オーバーだが、そんなことは言ってられない。高橋は車を急発進させた。 「公道に出ちまえば追いかけてはこれん。セーフだ」 交差点を飛び出して急左折。クラクションを鳴らされまくったが、知ったことではない。 車を路肩に寄せて、ほっと息をついた高橋が言った。 「大丈夫か。大丈夫なわけないな」 「やっと耳が戻りました。吐きそうです」 重尾が小瀧に寄り掛かる仕草し、大瀧が大げさによける。 「おい、命の恩人に吐きかけんなよ」 「お前はほんと思いやりがないよな」 「何言ってんだよ。目と目で通じ合った仲じゃん。あれ、どういう仕組みか後で教えてくれよな。ほら、頼まれたやつはちゃんと持ってきてるから」 大瀧は白いクリームケースを、取り出した。 「なんだそれは」 髙橋さんが聞いた。 「・・・分かりません。でもたぶん大事なものです」 重尾が苦しそうに答えた。 「キステロちゃん、これを口の中に塗ってたな」 「そうか。調べよう。警察官の監禁暴行だ。もう逃げられんよ。ひっ捕まえて締め上げてやる」 あちこちからパトカーのサイレンが聞こえてくる。ああ・・・助かった。重岡の意識が飛びそうになったが、その前に伝えておかなければならないことがある。 「あいつら、明日何かするつもりです」 「明日?」 「はい。明日です。それと、間違いなくクラウドに侵入しています。複数のカメラから俺のことを同じ目が見ていました」 「なるほど・・・・・病院についたぞ。とりあえず休め」 「ありがとうございます」
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