奪還 2

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救急病院にはあらかじめ連絡をしていたので医師と看護師が出迎えてくれていた。重尾を引き渡したあと、高橋と大瀧はロビーのソファに腰を下ろした。 「まずは『明日』だな」 「フラワーフェスティバルのイベントで間違いないと思います。明日、イスラ・コンティキの高官が参加します。そこで何かするつもりです」 「ふむ。今頃連中は拘束されたはずだ。じっくり吐かせればいいさ。クラウドシステムに入り込んだ方法も聞いてやろう。まあ交通局経由だろうな。あそこのセキュリティはどうなんだ」 「管理官の承認がないと、入れません。いちいち承認してもらわないといけないから、面倒なんです」 本当に面倒なんだよな、大瀧は思う。どんな目的でどの範囲に侵入するのかを申請しなければ入れてもらえない。緊急時に対応できないと思うのだが、まだプライバシーがどうのこうのでうるさいのだ。 「警察のほうも似たようなもんだ」 「でも高橋さんはさっき普通にカメラを見てましたね」 「ああ。こういうことになるかもしれんと思って、権限を一時移譲してもらってた」 「・・・権限 移譲・・・なんですかそれ」 「期間限定のパスワードみたいなやつを出してもらうんだよ。無理やり出させるんだけどな」 「そんなことできるんですね」 「まあな。無理やりだ」 権限の一時移譲・・・・ 待てよ、この言葉、どこかで聞いた。大瀧はゾクリとした。  神山さんだ。いつだっただろうか。俺が万引きの追跡をしようとしていたことがあった。管理官の承認がうまく取れなかったんだ。俺が提出した書類に不備があって、承認が降りなかった。そのことをデスクで神山さんにぼやいたんだ。 「ああもう、管理官うるさくないですか?」 「どうした?」 「書類がちょっとまずかったんですよ。書き直さなきゃ承認しないって。たいしたことじゃないのに、ほんとあの人うるさいです」 気を許した相手にはすぐに不平不満をぶちまけてしまう。悪い癖だ。直さないと。 「管理官、細かいもんね。ちょっと見てやろうか」 「え? 見れるんですか」 「うん。権限を一時移譲してもらうんだ。それ用のパスワードがあるんだよ。秘密な」 そういって、神山さんは、俺から見えないようにパソコンを操作して、俺が欲しい画像を出してくれた。あの時俺はただ、すごいと思っただけだった。でも考えてみたら、そんな操作が簡単に許されるはずがない。
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