奪還 2

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神山さんと昼食に行けたのはそれっきりだ。何度か捕まえようとしたけれど、きれいにかわされてしまった。大瀧はとても残念に思っている。詰めを急ぎすぎたよなあ、と後悔もした。でも、どことなくだが、以前と違う気がしていた。もしかしたら、俺に対して興味を持ってくれている? もう一押しで仲良くなれる? そんな気配を感じていたのだ。  だから、カメラを覗いている目が、神山さんであるはずがない。 交通管理局に到着した小瀧は管制室に入った。交通量の少ないこの時間帯は、夜勤の職員一人のほかは、AIによって制御されているはずだ。しかし管制室は無人だった。AIがモニターに交通量を光のドットで反映させているだけだ。 大瀧は自分のデスクについてパソコンを起ち上げた。マップ上に、権限があれば閲覧可能なカメラの位置情報が示される。おそろしい量だ。もちろん、閲覧の権限がないから、映像をみることはできない。  でも、閲覧履歴を見ることはできる。 そのカメラを閲覧した法人名、個人名。閲覧した日時。残っているはずだ。 大瀧は、最初にキステロが確認された防犯カメラの閲覧履歴を検索した。事件前の履歴は、定期的な設置者による点検。事件後は県警。IDは高橋さんのもの。不審な点はない。先日の駅構内で起きたものにも不審な閲覧履歴はない。  大瀧は安堵した。そりゃそうだ。当たり前だよ。 俺は何をやってるんだ。早く戻るぞ。高橋さんにどやされる。 しかし、重尾が拉致された周辺のカメラをチェックした大瀧は、閲覧履歴に「交通管理局」が示されているのを見つけてしまった。通り一面の防犯カメラに同一時刻、交通管理局からの閲覧履歴がある。  俺は今,あるはずがないものを見ている。ないことを確認しに来たものを見ている。
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