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後ろから、神山の声が聞こえた。
「慌てて仕事をすると、ろくなことにならない。まだ、お前には教えてなかったかな」
『あれ、先輩、今日が夜勤だったんですか、びっくりしました誰もいなかったから。』
明るく言おうと思ったけど、声が出なかった。振り向くこともできなかった。
「ごめんな。俺が悪かったんだ。いつもと違うデバイスから侵入したから、痕跡を消し損ねた。お前は悪くない」
足音がして、距離が詰められた。
「何でだろうな。なんでパスワードのことをお前に教えてしまったんだろう。お前にすごいと思われたかったのかな。先輩面したかったんだな。お前は悪くない」
真後ろに立っている。肩口に、神山さんの息遣いを感じる。小柄な神山の額が肩に載っている。大瀧の脇に腕が回された。
「いや、やっぱりお前も悪い。俺なんかに興味を持つから。」
大瀧がチノパンのポケットに入れたスマホをつかもうとした手を、神山は押さえた。
「おまえが悪いんだよ。俺なんかと親しくなろうとしたから」
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