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前夜 1
いつもはがらんとしている地下にたくさんの人がいる。マドレ、リュウセイ、お兄ちゃんのボス。ボスの仲間の男が何人か。外に逃亡したように見せかけるため車で逃げていた二人も、神山の誘導によりガレージ側の入り口から戻ってきた。
シラユキは隅にうずくまって、じっと黙っていた。地下のひんやりした空気に人間の熱気と湿気が混じって、少し気持ちが悪い。目を閉じると、まだあの光の残像が脳に突き刺さる。突然強い光と轟音で、体が動かなくなった。
怖いものが来たら、地下室へ。ずっと言い聞かされていた事態が起きてしまった。
シゲはどうなったんだろう。頭上がゴトゴトするのは警察の人たちが調べたり、探したりしている音だ。シゲは警察の人で、私たちの事を調べるためにだまして私に近づいてきた。それって本当なの?
違う。シゲはそんな人じゃない。
リュウセイが、隣に座った。シラユキの体が硬直する。閃光弾の光も轟音も、リュウセイがふるった暴力の記憶をシラユキからぬぐい去れなかった。
あれは、ひどい。手が震えるような怒りと、憎しみ。今までシラユキが抱く機会のなかった感情だ。シゲに、あんなひどいことをしてほしくなかった。
でも、未だ瞬きするたびに目の奥を刺してくるあの光は、シゲの仲間が投げ込んだものだ。裏切りの証拠だ。そんなの認めたくない。でも、認めざるを得ない。
シゲは、敵なの? シゲのせいで、あんな人たちがニエベスの中に入ってきて、私たちは地下に逃げてきたの?
私のせいなの?
「私のせいだ」
言葉に出すと、苦しくて吐きそうになる。
リュウセイがシラユキの肩を抱いた
「ユキのせいじゃないよ。ユキが悪いなんて誰も思ってないから」
本当に?
おそるおそる、リュウセイの顔を見た。リュウセイは、怒ってはいなかった。今まで見たことがない、泣き出しそうな悲しい顔をして、何もない壁を凝視していた。
「ごめんなさい」
リュウセイはシラユキの肩を抱き寄せた。
「ユキが謝ることは何もないよ。なんで俺に謝るんだ?」
「悲しい顔してたから」
「俺が悲しいからってユキが謝るのは変だよ」
「・・・どうしていいかわからないの」
「ユキ、これ見て」
リュウセイは、マドレから預かったシラユキの偽造免許証を見せた。
「白井・・由紀・・? なにこれ」
「自由になれるカード」
「私、白井由紀なんだ」
「すぐ慣れるよ」
「あ、この写真、お兄ちゃんがとってくれたのだ」
「かわいく撮れてるな」
「ユキ。キスしていいか?」
「・・・うん」
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