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「おいで」
シラユキは、マドレのそばに駆け寄って、ブラシを取ってマドレの髪をとかした。鏡に映ったシラユキを、マドレは見ている。シラユキも、鏡に映ったマドレを見ている。二人とも、少し微笑んだ。
「今からお仕事?」
「うん」
「ボスは最近人使いが荒いわね」
「でも、今日のは『飛ばす』だけだから簡単だってリュウセイが言ってた」
「そう・・・シラユキ、今日は何かいいことがあった?」
「え?」
シラユキはドキッとした。マドレは見ていたんだろうか。どうしよう。シラユキはまだ、重尾との出来事をうまく心の中で処理できていない。どんな風に話していいのかすらわからない。
「どうしてマドレはそう思うの?」
「なんだかニコニコしてるから」
「え、そうかな・・・」
「ええ。もしもいいことがあったんなら、教えてちょうだい。あ、そうだ、下にホレさんも来てるわよ」
「え? ほんとに!」
ホレさんはニエベスに花を卸してくれている農園のオーナーだ。年齢は四十代半ば。マドレよりも少し年上だ。そして、マドレと同じイントネーションの日本語をしゃべる。シラユキは、ホレさんのことが好きだ。ホレさんからいろんな花の話を聞くとき、幸せだと感じる。最近ぜんぜん会えていなかった。会いたい。
「あたし、行かなきゃ。マドレ、またね」
シラユキは慌ててマドレの部屋を出た。着替えて仕事に行かなければならない。シラユキの背中を、マドレはじっと見つめていた。
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