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夜が明けた
高橋は重尾の病室を訪れた
「具合はどうだ」
「胸を固定してもらったんで、だいぶ楽です」
あごに一撃された以外はすべて腹部への打撃だ。見た目以上のダメージを受けているが、重尾は笑ってみせた。
「すみません。俺が後先考えずに飛び出してしまって。大瀧にも謝ります」
「大瀧がな、戻らない」
「え?」
「スマホを追跡したが、交通管理局で電源が切られている。交通局内のカメラもデータも一定時間破損している。当直の職員はスタンガンで気絶していた」
「全く何の、手掛かりもないんですか」
「ああ。こんなに希望が見えないのは初めてだ」
「・・・すみません」
「反省と謝罪はあとでいくらでもしてもらう。奴らがうごきだすぞ」
「・・・フェスティバル」
「そうだ。俺はコンベンションセンターに行く。そこしか手掛かりがない」
「俺も行きます」
「動けるか」
「問題ありません」
「じゃあ来い」
男性看護師が、着替え用の私服を貸してくれた。礼を言って更衣室で着替えていると、かすかな地響きがした。嫌な感じがして廊下に飛び出すと、高橋の姿があった。
「テロだ」
「要人ですか」
「いや、商店街と駅前が同時だ。何が爆発したかは映像を解析してみないと分からん。要人はセレモニーホールの中に、ちょうど入ったところだ」
「中で襲撃するつもりですね」
「そうとしか考えられん。いくぞ」
高橋が運転する車内で、重岡は拳銃を渡された。
「高橋さん・・・」
「拳銃くらい扱えるだろ」
拳銃は貸与カードで厳重に管理され、必ず責任者から対面で手渡しされる。それを破れば一発で免職もあり得る。
また、地響きがした。今度は海岸線通り方面。警察車両が通行する脇をかすめての爆発だと無線で連絡があった。
無差別だ。
「四の五の言ってられないだろ」
「…了解です」
サイレンが方々から鳴り響き、車の流れはストップした。高橋は道路わきに車を寄せた。
「走るぞ」
「はい」
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