リュウセイ

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扉の向こうはむき出しのコンクリート壁に囲まれた小さな四角い空間がある。 何もない。部屋とも呼べない、ただの空間だ ただ、コンクリートの床にはマンホールがポツンとある。それを開けてはしごを降りると、やはりコンクリートに塗り込められたぽかんとした空間に出る。 昔、この国が戦争をしていた時に作られた、防空壕と呼ばれるものらしい。この町は空襲されることがなかったから、使われることはないまま、忘れられていた。 もの好きな誰かが、入口の上にビルを建て、反対側をさらに掘りぬいた。掘りぬいた先にガレージのような建物を建て、「佐々木物流」と看板を掛けた。周囲の人は、運送会社のガレージだと思っているようだ。 秘密の地下道だ。 仕事の時はこの通路を使って、「佐々木物流」に抜けていく。濱井さんはこのことを知らない。 シラユキはここのひんやりとした空気が好きだ。防空壕の中には、水と食料、寝袋などがあるから、しばらく暮らすこともできる。楽しそうなのにな、とシラユキは思う。でもマドレは、この場所は息苦しくて怖くなるという。 「最近ここ、物騒なものが増えたな」 リュウセイは、隅に積まれた木箱を指した。銃、弾丸、軍用のナイフ・・・ 「何に使うのかな」 「さあ。俺たちは関係ないだろ。めんどくさ」 リュウセイは苦々しく答えた。何をするつもりだか知らないけど、俺のことは巻き込まないでほしいと思っている。 それと、シラユキも。 リュウセイは、坂道を登ってニエベスに戻ってきたシラユキの、生き生きした顔を思い出した。 シラユキを、連れ出す時期なのかもしれない。ここは、いろいろと、ヤバい。
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