シラユキ

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                  1 この人は、誰? シラユキは、モニターに映っている青年の姿をじっと見つめていた。 なぜこんなに見てしまうのか、自分でもわからない。でも、見てしまう。 目が離せない。ずっと見ていたい。 グレーのパーカーに黒いジーンズ、ノースフェースのリュックを背負っている。 二十代後半だろうか。 この町は海と坂道と温泉が売りの観光地だから、たぶん旅行者だ。一人旅って雰囲気。一人旅の青年が、花屋の店先に置かれている白い花を見ている。五月ももうすぐ終わる。ゴールデンウィーク後は観光客も減るが、中国や韓国からの団体客をのぞけばこのような一人旅の若者が増えてくる。 一人の青年の姿を、花屋に設置された監視カメラがとらえ、それをシラユキが見ている。 シラユキは古びたビルの三階にいる。花屋はそのビルの一階にある。観光地の一角にあるから、ふらりと立ち寄る旅行者が時々いる。スマホを片手にキョロキョロと周囲を見回している青年の様子は旅行者そのものだ。ありふれた旅行者が、ふと目についた花屋の店先で花を眺めている。よくある景色だ。  ただ、その風景を映し出しているモニターのある部屋は、よくある場所ではない。 壁一面に長方形のモニターが埋め込まれている。警備室のような部屋だ。そこに映し出されているのはビルのあちこちに配置されている監視カメラからの映像だ。  その一枚に、彼の姿が映っているのだ。 短髪の黒髪。無造作な前髪からくっきりとした二重まぶたの黒い瞳がはっきりと自分を主張している。その瞳が店先の鉢植えを眺め、切り花を見つめ、店の奥に誰かいないかと探すように泳いでいる。 シラユキはその様子を、何一つ見落とさないように見つめていた。シラユキの大きな瞳を長いまつげが縁取っている。肩口で切りそろえられた黒い髪と、抜けるように白い肌、滴った血のような赤い唇を持つ、シラユキは十七歳の少女だ。
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