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4 ☆ ☆
防空壕を抜けて、出口のマンホールを開けると、そこにはすでに白いバンと仕事仲間が待っていた。四十歳くらいだろうか、がっちりした筋肉質の体をスーツに包んだ男。背丈はリュウセイと同じくらいだから180センチはある。ただ、体の厚みは倍くらいある。筋肉質だから威圧感がすごい。めったにしゃべらないから、シラユキも話しかけたことがない。この男が、いつも仕事の詳細を記したタブレットを持ってくる。
「あ、ホレさん!」
シラユキが、ホレさんを見つけて声をあげた。
「ユキちゃん」
ホレさんはシラユキの姿を見て優しく微笑んだ。小柄で、いつも作業服を着ている。作業着の胸には「ホレさんの花畑」と刺繍されている。ホレさんが経営している農園の名前だ。笑顔がいつも優しい。
「これ、持ってきたんだよ。」
ホレさんは、シラユキに丸いクリームケースを渡した。手のひらに収まるくらいの、皮膚科で塗り薬を処方されるときにもらうような、なんの変哲もない白いケースだ。
中には、半透明のジェルが入っている。
「ありがとう。」
シラユキは受け取ったクリームの日付を確認する。誰の字か分からない手書きの日付がいつも記入されている。
このクリームは『スノウ・ホワイト』の花から作られている。ホレさんが農場で栽培した花を精製したものだ。秘密の花からとれる、秘密の薬だ。
指でクリームをたっぷりとすくい、それを口に入れ、両ほほの内側に塗った。それが体温に温められて粘膜からも十分に吸収されたころを見計らって、リュウセイをよぶ。
「リュウセイ」
「ああ」
リュウセイがシラユキに顔を寄せ、唇を重ねる。
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