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これが夕暮れの街角であれば美しい恋の風景なのだろう。
でもそうではない。誰も知らない薄暗いガレージで唇を重ねる二人の目的は口中のクリームを共有することだ。
リュウセイはシラユキの口中のクリームを舌で舐めとって、唇を離す。
「行くぞ」
しゃべらない男が、はじめて口を開いた。ほんの短い言葉だが、イントネーションに違和感がある。
マドレやホレさんのそれと同じだ。顔立ちは日本人と変わらないだけに、かえって違和感が際立つ。男はタブレット端末をシラユキによこした。
その中に、今回のターゲットのデータが入っている。シラユキとリュウセイは、後部座席で内容を確認する。
「行ってくるね」
シラユキは窓を少し開けてホレさんに手を振った。
「ああ。」
ホレさんは、微笑んで手を振った。窓を閉めると、シラユキはワイヤレスイヤフォンを耳に差し込んだ。現場が近くなったら、的確な指示が飛んでくる。その声は「お兄ちゃん」のものだ。顔を合わせることはめったになくなったけれども、お兄ちゃんの声は、シラユキを安心させる。
お兄ちゃんの声に従っていれば、何も間違うことはない。
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