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濱井
濱井が花を配達したのは、ホテルのイベントホールだった。注文された花を納めたら帰るつもりだったのだが忙しそうだったからパーティのテーブルにセッティングするところまで手伝った。
することがないときは、つい体を動かしてしまう。仕事の流れをあっという間につかんで、きびきびと働く。新しい作業は、適度な緊張感があって心地よい。濱井は体を動かすことが好きだ。働きぶりがいいから
「濱井君、うちで働かないか?」
と、いろんな人から声をかけられる。ありがたいことだ。
しかし濱井は会社で仕事が続いたことがない。一通りのしごとをおぼえたあとにやってくる、「人をまとめる業務」と、それに伴う書類作成、上を目指すための資格取得・・・
濱井はそういうことが嫌いだ。辞表を出しながら、話が違うじゃないか、学校を卒業したら机に座って勉強しなくていいはずだろ、と毒づいている。でも母ちゃんが言ってたなあ。
「いいかい、最後は字をたくさん覚えた人間が勝つんよ」
この「字を覚える」というのは勉強ができる、という意味だ。お母ちゃん、あんたは正しかったよ。いくら体が動いても、字が覚えられないと上には行けない。でもさ、体が動けば、食べてはいける。俺はそれでいいと思っている。お金がたまったら、釣りに行って、キャンプに行って。それでいいじゃないか。
濱井は、ニエベスの仕事が気に入っている。試験を受けろとも資格を取れとも言われない。まあまあの給料をくれる。職場もみんないい人だ。イケメン君が時々不機嫌そうにしてるのもかわいいものだ。ユキちゃんもかわいい。不登校ってのが気の毒だな。
俺、勉強はできなかったけど、学校は好きだった。
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