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2 ☆ ☆
『Blanca Nieves』と書かれた看板がしまわれて、シャッターもおりている。最初は店の名前が読めなくて、濱井はリュウセイにフリガナをつけてもらった。
「しょうがないですよ。スペイン語らしいっす。俺も読めなかったです」
と、言いながら「ブランカ・ニエベス」とカタカナで書いて渡してくれた。
あの頃は愛想も良かったし何より敬語だった。今となっては濱井に対して外面を作らなくなった。まあ、それもかわいいんだけどね、と濱井は思っている。
裏口から入って、預かったお金を金庫に入れて余った花をショーケースに戻した。明日小さいブーケにして、店先に出してもいいかもしれない、などと考えていると、後ろで足音がした。マドレと呼ばれている、女主人のものだろう。
「遅かったのね」
やっぱりだ。低くて包み込んでくるような美声。こういうのを大人の色気というのだろう。濱井はこの女主人と話すとき、いつも緊張する
「は、はい、ついでだから、会場も手伝ったんです。今日は早じまいだったんですね」
「ええ、最近忙しかったでしょ。今日くらいは早く終わろうと思って」
忙しかった?そうだったかな、いつもと変わらずだったけどな、と思いながらも濱井は口に出せない。対面すると逃げ腰になってしまう。
「あら奇麗なバラ」
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