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3 ☆ ☆
「あら、その花」
マドレが声をかけた。濱井はびくっとした。濱井が手に持っているのは、カスミソウよりも一回り大ぶりな、星を散らばせたような白い花だった。
かわいらしい花だが主役にはならない。そのかわりどんなアレンジにもあうから、店で作るブーケには必ず混ぜている。
そういえば、よその店で見かけたことはない。今まで気に留めたことはなかったけど。
「スノウ・ホワイトね」
マドレはそう呟きながら、濱井から白い花を取った。指の隙間から赤いバラの花びらがひらひらと散って、下でしゃがんでいた濱井のほほをかすめた。マドレは、白くて小さな花に、そっと唇を押し当てた。
きれいな人だ。
今まで感じていた不気味さを忘れて、思わず見とれてしまう。そんな濱井に気が付いて、マドレがにっこりと笑う。濱井はぞっとして目をそらした。笑った顔が不気味だなんてどういうことだ。
「この花は、ちゃんと入れてくれた?」
「は、はい、ちゃんと入れましたよ。白くてきれいだから、どんなアレンジにも合いますし。あの、この花、好きなんですか」
「そうね・・・。好きとか、嫌いとか、そんな言葉じゃ語れないわね。この花は私そのものなのよ。絶対に、忘れさせない。ふふ、やっと気づいたのよ。ずっと待ってた」
この人、なんの話をしているんだ?
ぜんぜん会話がかみ合わない。あまりしゃべったことはなかったけど、こんな感じの人だったっけ。
「あの、俺、明日も早いんで帰りますね。お疲れさまでした」
「あらお疲れ様。明日はゆっくりでいいわよ」
「わ、わかりました。ゆっくり来ます」
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