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あの子がキステロ女だったとしたら、すごく嫌だ。
でも。
花屋なのに、花の値段を知らない子。自分の名字を知らない子。普通ならば、真っ先に疑うべきだ。高橋さんに連絡をしてあの花屋の登記簿その他、調べてもらわなければならない
でも。
報告するのはもう少し後にしよう。そもそも俺は彼女の姿を画像に収めることもできていない。花屋の女の子に声をかけただけだ。
ベッドサイドに置かれた小さなテーブルの上には、シラユキと一緒に作ったブーケがある。
途中で百円ショップに寄って花瓶代わりになりそうなプラスチックの器を買ってきて、それに挿している。
アジサイと、スプレーバラと、白くて小さな花。カスミソウみたいだけど、ちょっと違う。スノウ・ホワイトって言ってたかな。重尾は花屋でバイトしていたけれど、聞いたことのない花だった。
重尾はブーケの中から白い花を取りだして、眺めた。鼻を近づけると、ほのかに甘い香りがする。頭の芯にジワリと響いてくるような優しいけど、
引き付けられる香りだ。
スノウ・ホワイト。
あの子と同じ名前だ。
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