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4 ☆ ☆
花を挿した器の横にタブレットが置いてある。その日に得た情報を高橋さんに報告するためのものだ。
重尾は、今日起きたことを書きこまないと決めた。
タブレットには昨日高橋さんに送ったデータが入っている。
重尾はベッドの上で報告内容を反芻した
昨日、重尾が訪れたのは「県立湯府総合高等学校」
元々農業高校だったのが統廃合されて、普通科、農業系学科、商業系学科の三学科を擁する総合高校になった。
強い部活動があるわけでもない、ごく普通の高校だ。
ただ最近、マスコミにかなり大きく取り上げられた。
キステロ事案と関連があるとは思えないが、この町で目を引く事件と言えばこれくらいだった。
六月の日差しはすでに夏。海岸線から高校まで続く坂道は思った以上にきつい急こう配だった。湯府市民は自転車を利用しない。坂道だらけで役に立たないからだ。重尾は額に汗を浮かべながら坂道を上った。
下校時間を少し過ぎてしまっていたようだ。校門付近は静かだった。
ちょうど女子生徒が一人、出てきた。女子生徒は、たたずんでいる重尾に一瞬目を止めた。よし。すかさず話しかける。
「こんにちは」
生徒は無言で目をそらした。
「今テスト期間中か何かですか?あまり人がいないけど」
「あの・・・学校に御用なら、事務室はあちらです。」
警戒した口調で、生徒は答えた。いろいろあったんだろうな、と察せられた。
「あ、僕、OBなんだけど、校名変わっちゃったんだなあ、って思って、暇だから来てみたんだ。僕の頃は湯府農業高等学校だったんだよ」
「ああ・・あの、先生方に御用なら、事務室にお願いします」
重尾は苦笑した。マスコミ関係者と思われている。まあ、似たようなものだけど。
いや、もっと悪いかな。
ちょうどその時、校門から車が一台出てきた。車を運転している男は、重尾とやり取りしている女子生徒に声をかけた。
「どした?」
女子生徒は明らかにほっとした顔をした。
「桐島先生、この人学校に用事があるみたいです」
「ああ、そうなんだ・・・こんにちは」
桐島先生と呼ばれた男は、にっこりと笑顔を作って重岡に挨拶した。
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