重尾

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5  ☆   ☆ 「こんにちは」 重尾も、営業スマイルをつくって挨拶した。 「学校に御用でしたら事務室にどうぞ。取材だったら教頭が対応します」 「いや、ぼく、OBで、ちょっと懐かしくなったから来てみただけです」 「そうなんですか。何回生?」 「えっと、十二回生です」 「ふーん、何学科?」 「え・・・環境グリーン科です」 「そう・・・あのね、うちの学校、校舎は古いけど、校名変わって七年目なのよ。環境グリーン科は校名変わってからできた学科だからさ、十二回生はあり得ない。もうちょっと調べてから来てください。」 そういうと桐島は女子生徒に向かって 「一回校舎に戻れ。まだ図書室開いてるから」 と言った。女子生徒は小走りに校舎内に消えていった。 「もし本当に御用があるなら事務室にどうぞ。それじゃ」 桐島は業務用の笑顔で会釈して、車を走らせた。 桐島がスマホで連絡したのだろう、何人かの教師が重岡に近づいてきた。ここは退散した方がよさそうだ。重尾は校門を離れて坂道をさらに登り始めた。 『女子生徒校舎から転落死。自殺か』 学校の名前を検索すると、一番にこのニュースが出てくる。日付は五月十五日だから、約一か月前だ。ようやく落ち着いてきたころなんだろうか。 少し坂を上ってから学校を見下ろすと、グラウンドで練習をするサッカー部と陸上部の様子が見えた。学校の営みがごく普通に行われている。  女子生徒が飛び降りたのが二年生の教室の窓。グラウンドに面した三階の教室だ。ちょうど花壇と花壇の間に点在していたブロックの上に落ちたのが不運だった。  飛び降りた女子生徒は山田サラ。  山田サラが最後に会話をした教師が、桐島明人。さっきの教師だ。
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