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中田
1 ☆ ☆
重尾が最初にこの湯府市で捜査をしようと思ったのは、年上の友人、中田淳が住んでいたからでもある。
中田は湯府市で奇妙な施設を起ち上げて所長をしていた。一応研究所と名は付いているが、何の研究をするかはその時次第。そんなことで生計が立つのか心配になるほどだ。
「それが大丈夫なんだよ。俺んちは、実家が太いから」
そう言って中田は笑った。
中田と知り合ったのは大学生の時だ。花屋でバイトをしていた時に来たお客だった。花を買いに来る男性は、店員にお任せすることが多いが、中田はいくつかの花を迷わずに選んだ。
「プレゼントですか?」
「いえ、自分用ですよ。変?」
花を選んでいた中田の顔が、重尾の方を向いて微笑んだ。一瞬女の子かと思うような大きな目にドキリとしてしまった。
「いえ、素敵ですよ」
重尾がブーケを作る様子を、中田は興味深そうに見ていた。
「器用なんですね」
「ありがとうございます」
そんなやり取りの後、中田はなじみの客になった。
長いつきあいだ。
せっかくだから挨拶がてら、愚痴でも聞いてもらおうか。夕暮れにはまだ早い。
重尾はホテルの駐車場に停めていた車のエンジンをかけた。、中田の研究所は先日訪れた湯府総合高校の目と鼻の先にあった。
学校の横を通り過ぎると、女子生徒がバス停に一人で座っていた。昨日、重尾が声をかけた女子生徒だった。
「昨日はごめんね。今から帰りなんですか?」
女子生徒は驚いて顔をあげ、厳しい目でにらみつけた。
「お話は事務室で、て言いましたよね。そっちでお願いします。桐島先生は何も関係ありませんから」
「桐島って、昨日の先生? 僕は何も疑ってないよ」
「じゃあ、いいじゃないですか。バスが来ます。どいてください」
本当にバスが近づいていた。
「ごめんね。」
女子生徒はそっぽを向き、重岡は車を発進させた。
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