中田

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2   ☆    ☆ 中田の研究所は廃校になった小学校を利用している。校庭が駐車場代わりに使われているから止め放題だ。 玄関には「地球熱学研究所」という看板がかけられている。 重尾が玄関のインターホンを押すと、中田の声が聞こえた。 「どーれだ」 また始まった、と苦笑いをしながら、重尾は玄関の上に据えられている防犯カメラを見た。正面に一個、左右に一個ずつ。そのうちのどれかから、中田がこっちを見ている。それを当てろと言うわけだ。 「左でしょ」 そう言いながら、重尾はそのカメラを銃で撃つマネをする。 「当たりー。あいかわらずすごいね」 「はいりますよー」 玄関にカギはかかっていない。何の機密があるわけでもない。三つの防犯カメラは重尾を試す駄目だけに据え付けられている。 中に入って下駄箱に靴を入れて置かれているゴム製の上履きに履き替える。板張りの廊下を歩いて奥の講堂に向かった。廊下の片側には昭和の匂いがする教室が並んでいる。湯府温泉の源泉から熱源をひいて、その一つが温室になっている。 むせかえるような湿気と、ガジュマル、ヤシ、バナナ、クワズイモ・・。重尾はこの温室の事が好きだ。ここに来たときは、しばらくこの温室の真ん中でぼーっとしている。動物のいない、静まり返った熱帯雨林。誰も自分の事を見ない。
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