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静かな植物の息吹だけがある。重尾がぼんやりと放心していると、ぺたぺたと足音が聞こえて、背後の引き戸が開いた。
「勝手に入るなー」
「ちゃんと消毒槽に足付けましたから」
「お、分かってるね」
白衣を着た中田は、にこっと笑った。ここで会うときはいつも白衣を着ているけど、実験とか、研究とかはたぶんやってない。三十を過ぎているというのに、笑うと十代の女の子みたいな目元になる。
この笑顔に油断してしまったのだ。何のたくらみもなさそうな微笑みを浮かべて花を選んでいく。今日は来るだろうかと心待ちにしてしまった。
そして、ばれた。
「僕が声をかける前に、確実に気づくよね。偶然じゃない。どういう仕組み?」
少女のような微笑みを浮かべたまま、あっさりと言ったのだ。
『自分に向けられた視線を背後からでも確実にたどることができる。防犯カメラや双眼鏡からの視線も補足することができる。また、自分の視野に入っている人物が何を見ているのか、ほぼ確実に追跡することもできる。』
これが、重尾に備わっている力だ。
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