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中田は知り得た秘密を暴露するような人間ではなかった。
中田の好奇心を満たすためにいくつかの実験に付き合った後は気さくな友人として付き合えるようになった。
「コーヒーでも飲まない?」
「いただきます」
研究室の応接室は、昔の職員室を利用している。古い本棚や木製の机、黒板などはそのまま利用して、本棚の前にソファが置かれている。
中田はフラスコからビーカーにコーヒーを注いだ。レトロ感漂う建物に白衣を着た端正な顔だちの研究者がいるというのは悪くない。いっそ、理化学カフェでもやったら流行るんじゃないだろうか。
重岡は、ビーカーに注がれたコーヒーを飲んだ。
「中田さん。ここの名前、前は違ってましたよね。前は確か温泉熱・・なんでしたっけ」
「温泉熱利用研究センターだったよ。今は地球熱学研究所」
「なんか、一回りでかくなりましたね」
「まあね。去年、県から業務委託されてさ。設備ごと払い下げてもらったから、名前も変えた。温泉、てついてると、サウナと間違う人が多くて。この辺、観光客多いから」
周囲には今はやりの隠れ家風の温泉旅館が多い。ふらりと勘違いして立ち寄る観光客も多いのだろう。
「業務委託って?」
「うん。地質の検査とか、温泉の水質調査とか、こまごました仕事がある。おかげさまで生活していけそうだよ。」
「それは良かったですね」
「ありがとう」
中田は自分のマグカップに残りのコーヒーを注いで、重田の向かいに座った。本棚を背にすると、どことなくマッドサイエンティストの雰囲気が出てくる。
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