桐島

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2   ☆   ☆ もちろん桐島には分かっていた。俺の事が好きなわけではない。自分が装う斜め上四五度の空気に付き合ってくれそうな教師だ、と目をつけられたのだ。年齢的にも三十代前半。おじさんといじっておけば男女の距離感も程よく取れるから、手ごろなのだ。 桐島は、この学校に十年以上在籍している。農業科のある学校は数が限られており、自然と転勤も少なくなる。自分自身も農業高校だったころの出身者だ。 学科名が変わって、女子生徒がたくさん入学して来るようになると、本当に難しくなった。桐島は男子生徒の不穏な空気を察知するのが得意だった。何か起きそうだとおもった時には農場の草むしりに駆り出したりして、もめごとが起きないように気を配っていた。草むしりの後に実習室でコーラをおごって、たこ焼きを食べて、工業高校の生徒に女を取られた話をきいてやるころには外は暗くなっていた。 「じゃあな。先生」 と晴れ晴れした顔で家に帰っていくやつらを見るのが楽しかった。
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