桐島

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3   ☆    ☆ 山田サラが窓から飛ぼうとした姿を、桐島は見ていた。薬品庫に農薬を納めて、キャスターを実習室に戻そうと中庭横の渡り廊下を歩いていた時、三階の窓にふわりと人の形が現れた。 青い空だった。 中庭から見上げる形になった桐島の目に、青い空と、白い制服のブラウスがくっきりと映った。白い鳥に見えた。窓の桟に足をかけて、ぐいっと空に向かって上半身を伸ばした姿は、飛び立とうとする鳥のようだった。 『飛べ』と、桐島の心は叫んだ。落ちるな。落ちてはダメだ。飛べる。お前なら飛べる。 でもそれは,鳥ではなかった。 次の瞬間、桐島は地面にたたきつけられ、奇怪に首が折れ曲がった、山田サラの姿を見ることになった。血液がジワリとしみだしていく。駆け寄った桐島は、血だまりにグニャグニャと折れ曲がって浮かんでいる山田サラを抱き起すこともできず、ただ茫然としていた。 「桐島、桐島、何やってる。どうなってる。」 「サラちゃん、サラちゃん。」
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