桐島

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「この学校のビニールハウスな」 渡辺先生がぼそぼそと話し始めた。 「昔は、果樹実習園だったのよ」 「ああ、知ってます。梅と、梨でしたっけ」 「そう。俺はもともと果樹が専門でね。花なんか全然知らんのよ」 「へえ、信じられない。僕の倍くらい咲かすじゃないですか」 「まあな。やろうと思えば何でもできるさ。根っこは一緒よ。ただな・・・」 渡辺先生は、トルコキキョウのつぼみをやさしくなでた。 「俺は、どうせなら、腹に入るものを作りたかったな。」 「花は心の栄養ですよ」 「ふふん」 と渡辺先生は鼻で笑った。 「梅の花も、梨の花も、きれいなものだよ。実をつける前に蜜まで出す。健気なもんだ」 「ああ、ミツバチもいれてましたもんね」 「そう。巣箱を移すときに、大体5か所は刺される」 「そのころいなくて良かったです」 「ここにな。古い梅の木があったんだ。十メートル近い古木でな。創立の時に校長が植えたとか言う、シンボルみたいな木だった。」 「へえ。」 「その木でな、首つった生徒がいたよ」
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