38人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「この学校のビニールハウスな」
渡辺先生がぼそぼそと話し始めた。
「昔は、果樹実習園だったのよ」
「ああ、知ってます。梅と、梨でしたっけ」
「そう。俺はもともと果樹が専門でね。花なんか全然知らんのよ」
「へえ、信じられない。僕の倍くらい咲かすじゃないですか」
「まあな。やろうと思えば何でもできるさ。根っこは一緒よ。ただな・・・」
渡辺先生は、トルコキキョウのつぼみをやさしくなでた。
「俺は、どうせなら、腹に入るものを作りたかったな。」
「花は心の栄養ですよ」
「ふふん」
と渡辺先生は鼻で笑った。
「梅の花も、梨の花も、きれいなものだよ。実をつける前に蜜まで出す。健気なもんだ」
「ああ、ミツバチもいれてましたもんね」
「そう。巣箱を移すときに、大体5か所は刺される」
「そのころいなくて良かったです」
「ここにな。古い梅の木があったんだ。十メートル近い古木でな。創立の時に校長が植えたとか言う、シンボルみたいな木だった。」
「へえ。」
「その木でな、首つった生徒がいたよ」
最初のコメントを投稿しよう!