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5 ☆ ☆
「え」
「やんちゃでな。でもよく農場に来て、手伝ってくれる子だった。家も農家で、木の扱いが上手だった・・・
死んだ日もな、俺には、何も変わらんように見えてた。ほかの教員も、みんなそう思っていた。だから昼休みの後に姿が見えんようになっても、抜け出して買い食いでもしてるんだろうと思ってた。そういうところがあった子だったから、だから、よく探さんかったんよ。そしたら・・」
初めて聞く話だった。
「そしたらな。農場でな、死んでいた。後悔したよ。
なんで探さんかったんか。なんで気づかんかったんか。いつもと何か違うところがどこかあったんやないか。何度も何度も振り返った。で
も、何も分からんやった。もう三十年になるな。三十年経っても、なにもわからん。
だから・・・」
渡辺先生は深くため息をついた。
「だから、お前は、気に病むな。人の心の本当のところなんて、だれにも分からん」
「ありがとうございます」
先生の気持ちが痛いほど伝わった。
「もうすぐフラワーフェスティバルだ。うちも花を出さんといかんからな。忙しくなるぞ」
「ああ、そうですね。でも今年は・・・」
「あんなことがあったからな。花の数が足りないから、ホレさんの手も借りないといかん。海外から誰か来るんだろ? イスラ・・・」
「イスラ・ヌエボ、ですかね。ホレさん所の国ですよ」
「ああ・・・・ホレさんも複雑だな。まあ生きてればいろんなことがある。オマエもな」
「はい。」
「気合入れろ」
渡辺先生は肩を叩いてくれた。
でも、俺には、渡辺先生に言えていないことがある。
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