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6 ☆ ☆
山田サラとの最後の会話を心の中で何度もリピートする。
あの日、山田サラは農薬やその他の用具を運んでいる俺の後ろをぴょんぴょんとついてきて、聞いてもいないことをとめどもなくしゃべっていた。
「もうすぐ授業が始まるぞ」
という俺の言葉など全く無視していた。
体育館と教室棟をつなぐ渡り廊下に差し掛かった。柱と柱の隙間からふと空を見上げると、パラグライダーがゆっくりと旋回していた。赤い翼がくっきりとしていた。
最近できた新しい観光の目玉だ。山の中腹に作られた展望台のそばに、滑走路が作られて、いくつかのパラグライダーがくるくると回っている。
「きれーい。あれ乗りたいな、先生」
「観光用のやつだから、申し込んだら乗せてくれるよ。休みの日に行ってみろよ」
「えーでもさ。ああいうのがなくても飛べたらいいよね。ふわー――って」
それを受けて言った言葉を、俺は死ぬまで忘れないだろう。
『飛んで見なよ。意外と山田なら飛べるかもよ』
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