桐島

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7  ☆   ☆ 環境グリーン科には、『現場実習』の時間がある。学校外の農家や会社と連携して社会勉強をさせてもらう取り組みだ。 周辺の農家さんだけでなく、花を卸す市場や小売店にもいく。素行が悪くてやらかしそうな子は、教師の監視付きで駅のコンコースで花を配ったりする。 山田サラは、学校からちょっと離れた花農家に割り当てられた。毎年一定の生徒を受け入れてくれる親切な農家さんだ。経営者は日本人ではない。ホレさんという、南米の小さな島国から日本に来た人だ。 十七年前、その島国でクーデターが起きた。虐殺が発生して、多くの難民が生まれた。彼らの一部が日本に来た。 現地ではNGOが運営する日本語学校が人気だった。元々先住民族が大半を占める島だったから、顔だちも日本人とよく似ていて交流も盛んだった。そのため移住を希望する人が多かった。当時桐島は、全くニュースなど見ない中学生だったが、なんとなく記憶に残っていた。 イスラ・コン・ティキだったかな。 ホレさんの境遇を聞いたとき、あのような困難を乗り越えてきた人が、穏やかな笑顔で暮らしていることに感動したのだった。 農園の入り口に、実習に割り当てられた生徒たちが整列している。みんな実習服だ。環境グリーン科には実習服がある。モスグリーンの色をした作業着だ。 女子はこの実習服をダサいと言っていやがる。この学年は特に激しかったなあ。彼女たちの前に、ホレさんが立った。 「はい私の名前はホレね。ホレのホレは惚れやすいのホレなのよ。みんなの事、ホレちゃいました。よろしくね」 毎年定番の挨拶だ。このオヤジギャグを笑ってあげられる子たちは、素直に実習を楽しめる子たち。すかした態度をとる子たちは、何も学ぼうとせず、 「つまらんかった」 と感想文に書く。今年の子たちはどうだろうかとハラハラしながら見ていた。 「きゃはははは」 山田サラが甲高い声で笑った。ほかの女子たちは、舌打ちする音が聞こえるくらいに嫌な顔をした。 ああ、今年はだめかもしれんな。すでに仲間割れだ。
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