シラユキ

6/12

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「何かお探しですか」 やっと言えた。のどが詰まって、思っていたよりずっと小さい声になってしまった。 「この白い花、なんて花ですか?かわいいから気になって」 彼は店先の片隅に置いてあった小さな鉢植えを手に取った。花に顔を近づけて、においをかいだ。 「スノウ・ホワイトです。」 何とかしゃべれた。 「スノウ・ホワイト。はじめて聞いたな。あ、値札が付いてないですね」 しまった、とシラユキは思う。この花は秘密の花。  売ってはいけない。でも、ブーケを作るときには、ほんのすこしだけ混ぜておくようにと、マドレから言われている。 「そうしたら、あの人が気付くかもしれないから。」 マドレはそう言った。 「あの人って誰?」 シラユキが聞き返したら、マドレはうっすらと笑って、答えてはくれなかった。ただ、こう言った。 ーーーこの花は、秘密の花なのよーーー 「あの、あの、この鉢は売り物じゃないんです。」 「そっか。売り物じゃないのか。残念。でも、いい香りだな」 花の中に顔を埋める勢いだったのでシラユキは思わず言った。 「その花、毒があるんですよ」 「ええ!!」 彼は大げさに顔を背けて見せて、また笑った。 「嘘ですよね」 「いえ、本当です。毒っていうか、夢を見るっていうか・・・あ、でも見てるだけなら大丈夫です。口に入れるといろいろ・・・」
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加