桐島

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彼女たちが任されるのは、切り花の摘花作業だ。いくつかのつぼみから、一つだけ残して切り落とす。大きな花を育てるために必要な作業だ。 ビニールハウスの中で、腰をかがめての作業になるから、慣れるまではキツイ。 山田サラはあからさまに仲間外れにされていた。本人は気にするそぶりもなさそうにしていたが、突然立ち上がってハウスから出ようとした。 「山田、どこ行くんだ、戻れ」 でも山田は桐島の声を無視した。サラの方に行こうとすると、後ろから 「先生がえこひいきするからさ、サラが甘えるんよね。甘やかしすぎぃ」 とブーイングが上がった。 「サラのこと好きなんやろー。目がセクハラしてるもーん」 可愛い笑い声の中に、強烈な毒が仕込まれている感じだ。きれいなバラには棘がある、と言う古臭い言葉が頭をよぎる。 「いやいや、勝手に作業したら迷惑かけるだろ。じゃ、お前らが山田を呼んで来いよ」 「やだー、あいつムカつくもん。いつも勝手なことばっかりしてさ、あたしたちの事バカにしてるんよ。なんでフォローせんといかんのよ」 山田サラはハウスの扉を開けて出て行った。山田が気になりつつ、この女子たちをスルーすることもできなかった。 「桐島先生、俺が相手するから行ってきてあげて」 救いの声がした。濱井さんだ。ホレさんの農園と取引している花屋の店員だ。忙しい時にはこっちも手伝いに来るらしい。実習の時は必ずいてくれるありがたい人だ。 この人も、気さくなお兄さんからおじさんに移行しつつあるが、生徒に人気がある。ホレさんの代わりに学校に苗を卸しに来てくれる時は、人だかりができるほどだ。 「ありがとうございます」 濱井さんに任せて山田サラを追いかけた。 彼女はハウスからすでに姿を消していた。どこに行ったのだろうか。
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