シラユキ

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物心ついたころ、何度も引っ越した。どこも薄暗い部屋だった。シラユキは、外に出てはいけないと言われていたからじっとしていた。辛抱強い子供だったから、いくつかのおもちゃと絵本があれば待つことができた。あとは、音を小さく絞ったラジオ。 お兄ちゃんはいつの間にかいなくなってしまった。ボスって人が連れて行ってしまった。ボスはシラユキにお菓子やおもちゃを買ってきて、オセロで遊ぶことを教えてくれたけど、お兄ちゃんを連れて行ってしまったから、やはり今でも好きじゃない。 待つことはそんなに嫌じゃなかった。マドレがちゃんと一人で帰ってきてくれたなら。何人かの荒っぽい足音が聞こえてきたときは、シラユキは押し入れの中に隠れていた。時にはマドレと一緒に押し入れの中で震えながら、外で起きている争いごとが収まるのを待っていた。 シラユキが日ごろ使わない言葉で起きる争いごとは、何のことだか分からなかった。ただ、マドレがしっかりと抱きしめてくれていた。 争いが起きた後は決まって引っ越した。いくつかの引っ越しの後、この『ニエベス』に落ち着いてからは穏やかな毎日だ。 嫌なことは何一つ起きない。だから、この日々を守るために、シラユキは与えられた仕事をこなしていくのだ。 マドレがずっとあたしを守ってくれたから、これからはあたしがマドレを守っていく。「マドレ」と言う言葉は、日本では「お母さん」と言う意味だって、リュウセイが教えてくれた。ついでにマドレはお前の母ちゃんじゃないんだぞ、と言うことまで教えてくれた。でもそんなことどうでもいい。マドレとは、ずっといっしょ。今までも。これからも。 「マドレ。あたし、ちゃんとがんばるよ」 「え?」 「ちゃんと頑張るから、ずっとここで暮らしていこうね」 「ずっと?」 「うん。ずっとここでみんなと一緒に居たい。マドレと、リュウセイと、濱井さんと、ほんとはお兄ちゃんも一緒がいいけど」 「行きたいところはないの?」 シラユキの脳裏に、昼間に出会った重尾の顔がよぎった。 シゲ。 一瞬、胸が高鳴った。 シゲとは、どうしたらいいんだろう。シゲは、あたしが頼んだらここで暮らしてくれるんだろうか。どうやって頼んだらいいんだろう。 それとも、シゲのところに行かなくちゃいけないんだろうか。 そんなこと、よくわからないよ。 「・・・マドレ、あたしはずっと、ここがいい」 マドレはシラユキを抱き寄せた 「ありがとう」
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